ぼくと彼女がはじめて出会ったのはぼくがまだ十にも満たない穏やかな春の日だった。きれいな服を纏った彼女は公園で一人ブランコを漕いでいた。一目惚れとか、そんな安っぽいことは言わないけれど、なんだかすごく惹かれる自分を感じた。きっと、仲良くなれるそんな予感を強く抱いたのだ。
そして、ぼくと彼女はその予感通り仲良くなった。たくさん遊んで、たわいない話をして、そんなふうに過ごした。それでもぼくらは満ち足りていて楽しかった。
多くのことを話すうちに彼女はお嬢様だと分かった。父親が政府関係者であり、家柄も代々続く立派なものらしい。しかし、彼女は家族について多く語ろうとはしなかったので、ぼくは未だに彼女の家庭事情を深くは知らなかった。ただ、彼女は家のことを嫌っていて、いつも辛そうに家族の話をした。
ぼくたちは年月を重ねてもずっと一緒にいた。お嬢様である彼女の家柄は厳しくて、会える回数は減っていったけれど、その分より強く心を通わせていった。
だけど、彼女は少しずつおかしくなっていった。はじめて異変に気付いたのは、二人だけの隠れ家でもう何度目か忘れたキスを交わしたときだった。
彼女は突然に泣き出してしまったのだ。ぼくは驚きながらも、泣きやんでもらおうと彼女にやさしくした。しかし、やさしくすればするほど彼女の瞳は濡れていき、きれいな涙を流し続けた。そして、あふれる涙と一緒につぶやいたのだ。
「わたし、もう死にたいよ、」
それから、彼女は時々死にたいと口にするようになった。ぼくは最初こそ彼女を宥めるように、死をとめるように言葉を重ねたけれど、日に日に虚ろになっていく彼女に掛ける言葉などそのうちなくなってしまった。
そして、死ぬなら一緒に死のうと、誓いを立てたのだ。
しかし、彼女はその誓いをあっさりと破り捨てて、逝ってしまった。
彼女の死はぼくからすべての意味を奪っていった。生きる意味も、死ぬ意味も、すべて。
ぼくはただ彼女がいなくなっても過ぎていく日々になにかをとりこぼしていくのを感じながら、苦しさばかりを募らせた。
彼女を探すように街を彷徨い歩く。そんな日々が続いた。
そんなとき、ぼくは死神の噂を聞いた。
すべてを奪って、消しさってくれるそんな存在がいる。
死神だったらぼくもきれいに終われるかもしれない。
ぼくは哀しくて不毛な願いを抱いていった。それでも、それはぼくに道を示してくれた。終わりだけがきらめいてぼくを生かすようだった。
生と死の矛盾に埋もれながらぼくは死神に殺される日だけを夢見た。
救われる、なんて傲慢にも思いながら。
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