どこにも行けないと思った。
(遠いとおい果てまで連れ去って!)
どこにも行きたくないと思った。
(どこかどこでもいいから逃げてしまいたかった!)
泣きだす前に呪文を唱えてしまって、
ぼくに用意されたちゃちな悪夢は嘲笑を携えていただけだった。あまいあまい憐憫を誘うこともなく。にがいにがい悲劇をもたらすでもなく。ただ、絶望だけが寄り添っていた。それはまるで終わらないような錯覚を呼び起こして。泣きたいだけの今日さえ許されないと思った。(ほんとうはもう、)
降り出した雨の中を飛び出して、服が濡れるのも構わずに走った。走って、走って、わけもわからず走った。体が冷えていくのを感じながらも、心臓だけが熱くて壊れてしまいそうだった。体力なんてろくにないぼくはすぐに酸欠になって、呼吸がままならなくなってしまった。ぜーはーとみっともなく息をして、足が言うことを利かなくなっていくのを感じながらも、引きずるように前に進んだ。止まったら、終わってしまうと思った。ぜんぶ、なにもかもぜんぶ、終わると思った。それはバカな妄執のようだったけれど、そのときはそれがたったひとつの真実のように力を持っていたから。だから、がむしゃらに前に進んだ。降り付ける雨は冷たくて、痛くて、目に染みて、ちっともやさしくなんてなかった。その一粒一粒が呪いみたいで、ぼくはこのまま冷たくなって死んでしまうかもしれないと思った。
それでもいいと思った。だけど、心臓だけはやっぱり熱くて、うるさく鳴り響いていて。ああ、ぼくは心臓になるのかと思った。小さいのに、熱くて、生命力にあふれている、そんな固体になるのだと思った。
今日はかみさまが号泣しているね、(ぼくのかわりに)
ぼくの体力はいよいよ底を付き始めて。呼吸はますます困難になっていった。足も重たくてずるずると引きずるばかりになった。そして、ああもうだめだ、そう感じ始めたと同時に、ガクリと膝を着いて崩れ落ちてしまった。それでもぼくは止まりたくなくて。なんだか大きな使命を持っているような気分だったから。必死に這った。だけど、少しも進まないうちにグラグラとすべてが崩れてしまった。ぼくは地面に突っ伏して、コンクリートの冷たさを染みこませていった。
それはやはりやさしくなどなかった。
死にたいな、(生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい)
ぼくは途切れ行く意識の中でただ呪いの言葉を紡いだ。情けなくて、惨めで、悔しくて、ちっぽけな自分を呪いたかった。心臓なんか止まれないいと思ったし、このまま酸性雨に解かされて、ぐちゃぐちゃになってしまえばいいと思った。跡形もなく消えればいい。
救いなんてないのだから
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