「今日一日で10回くらい泣きそうになって、でも、結局泣けなかった」
「泣いてもいいよ」
「……いやだよ」
「なんで?」
「なんか思うつぼって感じ」
「なにが?」
「きみの声聞いたら安心して泣けてきた、みたいな、そんなのいやだ」
「あはは、なに言ってんの」
「笑うな」
「あはははは」
「わ ら う な」
「………」
「なんで黙るの」
「いや、笑うなって言ったから」
「黙れとは言ってない」
「はいはい」
「………」
「……泣いてもいいよ」
「……泣かないよ」
「ふーん」
「うん」
「………」
「……電話切ってもいい?」
「……だめ。……切ったら泣く」
「じゃあ、切ってあげるよ」
「なにそれ、」
「泣きたいんでしょ?」
「……泣かせたいのかよ」
「あは、そうかも」
「最低、どえす、変態、しね」
「………プープープー」
「まじで切りやがった……」



「もしもし?泣いてる?」
「泣いてません」
「そりゃ、ざんねん」
「………」
「なに、怒った?」
「怒ってねぇよ」
「口悪いなあ」
「怒っていません」
「あはははは」
「やっぱ死んでください」
「はいはい。で、どうすれば泣くの?」
「いや、だから泣かないって」
「タマネギでも刻んでみる?」
「いや、だから人の話聞いてる?」
「うーん、ほ●るの墓見てみるとか?」
「いやいや、そりゃ見たら泣くけど、余計に鬱になるわ」
「なに鬱なの?」
「……もういい、黙って」
「あはは、冗談だよ。じょーだん」
「………はぁ」
「でさ、いま家に居るんだよね?」
「え?あ、うん、そうだけど……」
「そっか。そりゃよかった。これで居なかったら最悪だもんなあ」
「は?なに?どういう意味?」
「さて、問題です。オレはいまどこにいるでしょうか?」
「え、どこって、え?え?ちょ、まさか、え?」
「あ、酒とつまみの代金は割勘な。オレ今月ピーンチだから」
「え、えええ、いや、あたしだって今月ピンチだよって……そうじゃなくて、ええ、ちょ、まじで?」
「まじだよ。おおまじさ」
「……どこにいんの?」
「それはオレがきみに出した問題だよ」
「……あたしん家の近く?」
「ううーん、まぁ、正解でいっか。近くって言うか玄関の前だけどな」
「え!?早!?ちょ、ちょっと待って!部屋片付ける!」
「えーいいよー、寒いから早く入れてー」
「だめ!よくない!」
「大丈夫。ブラジャーが落ちてても気にしないよ」
「あたしが気にするわ!」
「大丈夫。パンツが落ちてても気にしないよ」
「いやいや気にしろよ!」
「あははは〜」
「あははじゃない!」
「あははは〜」
「……はぁ」
「……ところで、電話切ってもいい?」
「……だめ。切ったら泣く」
「そっか」
「うん」
「じゃあ切らないでおこう」
「うん」
「でも、なるべく早く中に入れてね」






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