だれもしあわせにならない
きみの呪いのことばを舌先で弄ぶ
真夜中のしじまにおいて
それはまるで真実のような気さえする
ぼくもしあわせにならない
一緒に観た戦争映画が
ちっぽけで能天気な幸せを
ありふれて甘美な不幸を
根こそぎ奪っていくように
きみもしあわせにならない
慰めあうように抱き合って眠ったのは
傷口から漏れ出す赤の匂いに
陶酔して愛をみただけ
いつの日かきみはぼくを抱きしめて
雨の匂いがする、と云ったね
あれはきっと今日の涙の予感だったんだ
きみの呪いのことば
ぼくがちゃんと咀嚼してあげればよかった
そうすれば今日も笑っていられた
だれもそれを幸福と名付けることなく
ずっとずっと笑っていられた
だれもしあわせにならない
きみのやさしさをまぶたの裏で懐う
朝焼けのまぶしさにおいて
それはただの幻想だと知る
窓から光が差し込む
それはきっとだれかのしあわせで
ぼくの絶望を照らす
雨はまだ止まない
110513