夜明け前
聡明なふりをして息を潜めていた
(指先が青白くなるまでつよく握った)

夜になれば眠れるって
そんな魔法があったはずなのに

静寂が生み出す途方もないような憂鬱に
脆弱なぼくの救いようのない耽溺に

愚かなコントラストを虚飾して
眼鏡のレンズに指紋をつければ
つかの間の夢くらいにはなるから

昼下がり
道化のふりもできずに身を潜めていた
(指先が青白くなるまでつよく握った)

死ねば終われるって
そんな魔法はしまったはずなのに

戸惑いは額縁の中でしか意味を持たず
はみ出したのは世界のほうだったと
壮大な妄想で取り繕ってみても
きみが遠ざかるだけ

積み重ねて崩して
積み上げて壊して
片づけもうまくできず
無様に逃げ出した痕跡が散らかり放題で
ぼくの中は空虚より性質の悪いまるでパンドラ

いっそ交わした小指なんてもいでしまおうか
赤い糸を手繰りよせただれかが
愕然とするかもしれないけれど

深夜2時
ぼくのふりをしてぼくを偽っている
(指先が痛覚を失って踊りまわる)

不在の小指はまだかえってこない




110115