さよならを欲しがった昨日のぼくはもういない。今日のぼくのためにぼくがころしてしまったから。さよならも云わずに死んでいったの。今日のぼくのからだの奥の方で昨日のぼくの骨を感じる。吐き出すこともできずにときおり喉に突っかかり呼吸を妨げては存在を誇示している。(どうして生かすことができなかったのか)果てない問いかけに今日のぼくが答えられるわけもなく。昨日のぼくに聞こうにも骨が答えるわけもなく。しかしそれをかなしいと思うわけでもなく。

昨日のぼくの骨は今日のぼくのかなしみの器官に埋まっているのだ。かなしみの器官は空っぽになるとかなしいと訴えるのにもうそこに隙間は生まれない。いくつもの残骸が埋まっているから。

もうぼくはかなしみを知らない。それは好都合なことだと云われたけれどぼくはたまらない気分になってしまう。よくわからない場所が痛みを発して何気ない日常が頼りなく滲んでいく。

かなしみの器官はしくしくと音を立てて膨れ上がっていく。

かなしい。
かなしい。
かなしい。

今日のぼくもきっと明日か明後日のぼくにころされてしまうのだろう。それでも今日のぼくは途方もない隙間をいとおしく思い、安堵すらしてしまう。

しくしく。
しくしく。
しくしく。

かなしみが膨れ上がって今日のぼくがかなしみになる前に不毛なさつじんを行わなくちゃいけない。(どうして生かすことができないのだろうか)果てない問いは果てないまま。(きみがいつかもっとやさしいものを埋めてくれるのかもしれない)淡い期待を抱いたりしながら。

かなしみは帰還する。いつかころされるだけのぼくのもとに。芳しい匂いをさせながら。ただいまと云いもせず。ずうずうしく帰還した。




1001031