手首の傷ごと右手を失くして
きみとの約束は無効になる
交わした小指の温度も
もう覚えていない

欺瞞に満ちたやさしさを
わらって受けとっても
咀嚼なんてできなくて

吐きだし方もわからないから
溺れた金魚みたいに喘ぐ

ぱくぱく、ぱくぱく

そのまま愛なんて語りだすから
つめたい眸に殺されそうになるんだ

滲んでいくのは
眼球か世界か手首かぼくか
零に限りなく近づいても
死を恐れるように心臓が疼く

じくじく、じくじく
しくしく、しくしく

左手を失くしたきみと手を繋ごうか

やさしさは忘却されて
はじめて意味をもつ

死んだ金魚がうつくしかったことに
いまさら気がついて立派なお墓を作ってあげたら
右手がひょっこり出てきた

こんなひどい仕打ちもないよなあ
残酷なやさしさに毒づいて
ヘレンのためにぼくは少しだけ泣いた




100430