あの日、
青春を置き去りにしてきたぼくは
何遍も記憶をたぐりよせる

もうどれが本当にあったことなのか
わからないくらい妄想と織り交ぜられた
マーブル色の

うつくしさとは悠遠で
傷痕だけが
真実のように痛む

あおいはる
きみに託すこともできず
まるで宝物のように
やわらかな子猫のように

揺れる電車のなか
寂寥感にまぶたをおろす

思い出なんて名のものは
ひとつもないのに
それはまるで
ノスタルジアのよう

まぶたをあげると
本を読む人が目にとまる

(どっかで見たことある)

どっか、

テレビの中だったか
ふるい級友だったか

一瞬考え込むが
すぐにやめる
その差異は瑣末でしかない
昨日の夕飯が
思い出せないのとおなじ

ぼくはふたたび薄闇をひきよせる
とおくで青がひかってきえた

きえた




100202