置き去りにしたかなしみが
忘れたころにやってきて
ぼくを困らせる

抱きしめる腕を持っているけど
触れるのはやはり怖い

あれは確かに
むかしぼくの一部だった

でもいまはもう
わけのわからん物体でしかない

乱雑な部屋
本当に必要なものはなにもない
ベッドの上で丸まるぼくさえも
いらない

狂ってしまいたかったのに

ここに狂気はなく
錆びた凶器はあったけど
それを握る勇気はなかった

聞き覚えのある声で
名前を呼ばれて目を覚ます

「死にました、そいつはもう死にました」

酸素の薄い部屋
いらないものばかり
生命はひとつもない

わけのわからん物体が
もぞりと動いたような気がした

泣いていたのかもしれない




091113