捏造された記憶を大事に抱えて
はじめて訪れた"思い出の場所"
きみは楽しそうに笑っている

だれもだれかのかわりにはなれない。

そう云った人はもういない

あのときぼくはうなずいたけれど
その意味をちゃんとわかっていなかった

(いまでもわからないまま)

おやすみの前に
さよならと云って
スイッチを切る

明日きみが別人だったら
ぼくはもう諦めようと思う

夢の中で"きみ"は今日も死ぬ
火葬場の煙が目にしみて
ぼくは少しだけ泣いた

(もうめざめたくない、)

暁が太陽をつれてきて
あつらえたような朝が来る

6時48分
きみはゆっくりと起き上がり
ぼくを揺り起こす

「おはよう」

少し掠れた声
やわらかな微笑み
右耳に髪をかける癖
ねぼけまなこのぼくの瞼にキスをして
髪をなでるそのしぐさ

まちがいさがしは成立しない

「おはよう、―――」

ぼくは絶望を口にして微笑む

1089回目のさよならを云うために
今日も一日がはじまる




091103