「だからそんな顔しないで
ぼくはちゃんとしあわせだよ
きみが望むような幸福とは程遠いのかもしれないけれど
ぼくは幸せ、しあわせ、だよ」

きみはそう云って笑う
頬をなぞる指先は涙が出るほどあたたかくてやさしくて
ぼくはそっとくちびるを噛み締める
なんだか無性に叫びだしたくて
だってきみは不幸だと嘆くぼくよりもずっとずっと傷を隠し持っている
ぼくには暗い出生の秘密すらない
手首を切る理由など一つもない
首を吊る正当さなど微塵もない
ただきみが積み上げた不幸を羨望する
そういった愚かさがたぶん不幸の所以だろう
それともそれすらただの詭弁だろうか

「百回死にたいと思った
千回生まれてこなければと思った
一万回世界を呪った
それでもぼくは今日も息をしている
だからもう諦めた
諦めて幸福になろうと思った」

きみはしあわせだと笑う
あたたかいものを知ったから、と云った
それはきみだよ、と云った
つまり、ぼく、だと
きみはそんな眩暈がしそうなことを容易く口にして
ぼくの不幸を根こそぎ奪っていく
細胞一つ一つが不幸で構成されているというのに

ああ

ぼくは明日からどうやって生きていけばいい

わからない
さっぱりわからない

どうしよう
どうしようか

ああ

こまった
こまったものだ




090720