泥のように眠ったあと
ふいに手首に痛みを覚えて
赤い幻覚を見た
くちびるをそっと寄せてみるけれど
そこには傷痕などありもせず
ああ、そうか、とぼくは再び目を瞑る

あのとき死ねなかったぼくに
甘やかしてくれる傷痕などあるわけもない

ひどく正常な夜
狂気は行き場所をなくして
声も上げずに泣いていた

もうここには祈りもない
神様は5年前に死んだから

だれも正しくない
なにも確かではない
ただきみの傷口の数だけが真実

そこにある痛みだけが

だけどたぶんそれも嘘
所詮はだれかの見ている甘い夢
安っぽいひとりよがり

それでもおまえの薄ら寒い微笑よりは
幾分かマシであろう

なにも正しくはない

ただひとつ
どうか死ぬならひとりでだれにも云わずに死ね

(きみの死がだれも責めないと死んだこともないのに思うなよ)




090702