死にゆく日々を
幸福に似たなにかで繋ぎとめる
気休めの微笑が
あの日の母のぬくもりのかわりになるなら

発狂する方法を
ただしく封じられて
直立不動のまま
しずかに泣いた

ありふれた模造品で彩られた
かなしい食卓のなか
安全なナイフが明滅している

(決められた呼吸音を復習している)

まやかしの日々に
不幸に似た甘やかさを添える
上辺だけのことばが
あの日の愛を遠ざけてしまうなら

たしかに生きてきたはずなのに
途方もない空虚だけが
たしかなもののように寄り添っている

見慣れた風景のひとつひとつを想いえがく、しあわせだったことを、

(決められた心音で復讐している)

愛する方法を
ただしく教えられて
夢をみたまま
口を閉ざした

握りしめたナイフは
あてどなく
わたしの左胸をそっと掠めるだけ

毎夜くりかえしている
あの日の帰り道を知るために





130703