飽和する痛みにぼくらは安堵する
子宮からもたらされた幸福が
いずれ色褪せたかなしみになることを知っていた
そのかなしみが
ときおり幸福の顔で微笑むこともまた知っていた

ぼくらは欠落してはじめて満ち足りる
どうしようもなく呆れるほどにいびつないきもの
果てない欲望はいつだって矛盾を孕んで
手放すことでしか均衡を保てない

理想的なのは永遠に手にできないこと

きみはなにも知らずにただすべてを手にし
幸福を幸福と名付けることもなく
それでも仕合わせで

良心的なのはぼくらが口を開かないこと

縫い合わせたくちびるからこぼれたのは
呪いのことばでも憎しみでもなくて
成りそこないの愛のうたさ

(きみがもっているものぜんぶほしかった)
(でもほんとうはなにもほしくなかった)

偽善的な痛みも後ろめたい傷跡も
なにもかも差し出して
ありふれたものにしてしまえば
ぼくらにはなにも残らず
だけどすべて与えられてしまう

芳しい血の匂いが噎せかえる夕闇の中
失くしたものを取り戻そうとした
その傷口がたまらなくいとおしいから
ぼくらは泣いたりする

差し出されたきみの手はうつくしすぎた

(さぁ、ぼくがもっているものぜんぶうばって !)