名前をよんでほしかっただけ
無数の蟲たちが愚直に光に集うように
無数の人たちが安直に嘘を吐くように
醜い蝶はひらりと踊り
美しい蝶はそっと磔にされた
きみは机の上の鱗粉を指でなぞり
ぼくはひかる指先をそっと舐めた
たった一度
名前をよんでほしかっただけ
白磁のような背中には
透明な翅が生えている
くっきりと浮かび上がる肩甲骨に
ナイフを突き立てれば
真っ白な羽が
(生えるというのだろうか)
きみは微笑っている
ぼくもワラっている
さぁ、楽しい遊戯を続けよう!
さぁ、美しい終焉に向けて!
さぁ!
モルフォ蝶が手のひらで
青く発光している
きみに
名前をよんでほしかっただけなんだ
世界は静かに落下して
パチン、と音が鳴った