失くしたものはなんだってうつくしい
あの日の忌まわしさなどなかったことになる
昏く淀んだ瞳の奥にいる生き物さえも飼いならして
砂の味がした毎日の食事も美味しかったような気がして
なんだかもう簡単なことばでまとめてしまえる

(ひみつなんてもたなくてももうだいじょうぶ)

隠しきれない罪悪が曖昧な笑みの隙間からこぼれおちた
その善良さがぼくの呼吸を妨げて
またきみにつまらないうそを吐かせた

それなのにいまや
傷付きたがるまっさらな指先に
なんの含みもないような顔でキスをして
あの子の正しさを無意味に肯定して
そっと堕落を差し出したりする

崇高なふりをしたひみつは
盾にもましてや矛にもなれず
喪失と傷口が甘美に寄り添うだけ

失くさなかったものだって色褪せて
あの日かくした素直さも
あの日こぼれた純粋さも
見破られてばかみたいに安堵すれば
ほらもうなつかしさだけが残骸みたいに散らばる

ぼくの持ちえなかったひみつをだれかはまだ大事にしている
その甘美さに不毛な羨望を抱いてこの身を呪わしく思う夜もあるけれど
善良さがきみのうそを守るから
きみのうそから一握りの真実を知るから
ぼくらはもう

「ひみつなんてもたなくてもだいじょうぶ」




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