猫のほうが幾分かましであった



逃走してきました
すべてを持って、
なにひとつ捨てられないぼくの未練
おいしくもなく
味気けもなく
べたべたしていて
この夏の間にたぶん腐る
そうと知っていても
ぼくはそれらを鞄に詰め込めずにはいられず
もてあましたすべてがとけおちるまで
寄り添い続けるしかないのである

  この夏が終わるまえに死ねたらいいね、

隣人の呼吸の音に耳をすまして
ぼくはそのぶんだけ息をころして
乱雑な部屋でガラクタばかり増やす
妄想はときにぼくを不幸にしてしまう
しかしその不幸こそいちばん甘美だと
隣人は知るよしもない
(それもそうだ、隣人の手に不幸など持てやしないのだから)

いま向かいのアパートの少年が
そっと窓から飛び降りる
その瞬間にぼくはひっそりと後を追う
肉片が飛び散る音を聞くのと
ぼくがさよならを告げるのと
いったいどっちが早いのだろうか

眠らないで待つ朝
隣人も今日は静かで
まるで葬式みたいだと思う
暗闇に横たわるぼくは
さながら遺品に埋もれる死体のようで
ガラクタが妙にいとおしく感じた

死体には意味のないすべて、
持っていけないすべて、
すべてすべてすべてすべて、
いらいないもの

さぁ!愛すべきガラクタよぼくと一緒に朽ち果てろ!




080818