焦燥



なにもかも失くしてしまった
空っぽなこの身など滅びればいい

ああ書かなくちゃ!

それしかもう残っていない、残ってないんだ

(涙もとうに涸れ果てた)



後悔しても懺悔してもなにも戻ってはこない。失くしたものはあまりにも眩くて美しくてとても大切だった。なぜ手放したのか、その答えはたぶんどこにもない。取り返しのつかないことをしたのだと怠惰な日々の中でぼんやりと思う。焦燥感ばかりが募って、逃避するようにひたすら眠りこける。朝なのか昼なのかはたまた夜なのか。それすら曖昧で、今日が何日なのか確かめる術はあれど知りたくもなく。誰がこんなぼくを生かすのか。なんでこの部屋に酸素がまだあるのか。夢心地に考える。きっとぼくは死の呪文を置き去りにしてしまったのだろうな。ふふ、と可笑しげに笑う。

欠落は甘美だ。満たされないことだけが生きている意味だとさえ思う。

きみの寝顔をじ、と見る。これは誰だったか? ぼくだっただろうか? だったらそっと首を絞めてあげなくちゃね。あまり苦しくないように一思いに。耳元で子守唄を歌いながら。

目が覚めて生きていたことにがっかりする。(なんだ残念)。きみの首の骨が折れた感触だけがやけに鮮明で。手のひらをじ、と見る。生きている。きみの死の犠牲の上にのうのうと生き延びている。

そしてぼくはきみの顔すらもう思い出せない。

いつかぼくはきみに成り変るだろう。名前も顔も罪もぜんぶ忘却してしまえる時がくる。それまで、それまでは夢でこの命を繋ごう。毎日きみを殺しながら。



諦められない
だって言葉を知ってしまったから
悲しみがまだ色づいているから
ぼくは書き続ける
まるでなにかに飢えているみたいに




090712