きみの名は、



空っぽになればなるだけ"それ"は横溢する。空虚という暗闇を食いつぶす生き物みたいに。まるでぼくを殺そうとしていかのようだ。生きようと思う気持ちと"それ"を大事にする気持ちはどこまでも相反する。でも、相反するという事実はどこまでも矛盾している。堕落すればあの子は悦ぶけれど、ぼくは生きていけない。あの子を捨てれば楽になるけど、ぼくは生きる意味を失くす。選ぶことはとても難しい。丁度いい、適当なところで折り合いをつけるしかない。人生のすべてを"それ"で満たしたいわけじゃない。ただ奪われなければいい。堕落を絶望をそこからしか生まれない幸福を。気づいたら多くのものが埋没してた。残された不出来な少女だけが暗い瞳をこちらに向けていた。少女は両手を差し出す。"だきしめて"と口の動きだけで伝えてくる。何度も躊躇して躊躇してぼくはいまやっと手を繋いでいる。

行き先はいまだ知れない

でも死ぬときは一緒だろう




100322